Magnolia Tech

いつもコードのことばかり考えている人のために。

「NO HARD WORK!」を読んで、“説明責任”と、“コンテキストスイッチコスト”について思いを巡らせた

「リモートワークの達人」を書いたジェイソン・フリードと、ディヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(DHH)の「NO HARD WORK!」をようやく読んだ。

2018年に原著が出版され、去年日本でも翻訳が出た、二人の最新作だ。

ちなみに、原題は「It Doesn’t Have to Be Crazy at Work」となっていて、「リモートワークの達人」のときもそうだったけど、原題の方がいいなと思う。

なお、「リモートワークの達人」の感想エントリはこちら。

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今回は「仕事だけに忙しく、クレイジーに働きすぎない」というテーマだ。世の中の働き方がそうなっていることの理由を本書では冒頭に二つ挙げている。

  1. 多くの集中力をとぎれさせる要素(チャット、ミーティングなど)によって、時間が分断され、仕事に集中するための環境が確保されず、効率が落ちていること
  2. 高すぎる目標設定がストレスとなって正しい判断や、行動を阻害していること

本書では徹底的に上記に挙げた状態を作り出さないために、何をやってきたか、何を変えたか、ということが語られる。「今何をしているか」というhow toよりも、「なぜそうしたか」というwhyに着目して読むべき本。ベストプラクティス集として読んでしまうと、書かれた意図を誤読してしまう。

後半の「組織文化を育てる」「プロセスを解体する」「ビジネスに力をいれる」は、割と色々なトピックが入り混じっていて正直拾い読みくらいでもいいけど、冒頭の二つのトピックについて語っている「大志は抑えて」「自分の時間を大切に」が、良い。というか、きっとこの前半を語るために後半も一緒に書きました感がある。

あ、唯一「組織文化を育てる」の中の「ぐっすり眠る」は良いトピック。ここは3回読み上げよう、声に出して読もう。そして、8時間寝よう。


最初に出てきたうち、二つ目のトピックについて…目標設定をどの粒度で作るか、どの程度達成に向けたコミットを行うかは組織運営に関わる大きな方針なので、出資元だったり、上司の方針だったり、組織規模によっては簡単には変えられない(本書で出てくるベースキャンプ社は、自分たちでコントロールするために外部からの出資を入れていないと言っているが……それは直ちに変えられることでもないし…)のかもしれないけど、一度自分たちが置かれている環境に意識的になるにはすごく有効。

で、この辺を読んでて思ったのが、今の世の中、いろいろとなことが「説明責任」を果たすことをすごく求める方向に振れやすく、成果を出すこと/結果を出すことと同じくらい、いやそれ以上求められていませんか、ということ。

だけど、時間は有限だし、人の関心量も有限なので、それがアウトプットの質ではなく、いかに「説明責任を果たしたか?」という方向に行ってませんか?それで結果的にアウトプットの質が下がり、それを補うために、更なる時間が使われ、更にその説明責任が…みたいなことを常々考えている。

必要な説明責任を果たすことは非常に大事なことだけど、目標を立てて、外部にそれをコミットすることで発生する「アウトプット以外のいろいろなこと、つまりステークホルダーに説明を行うための作業」が色々な場所、色々な階層で、多すぎたりしませんか、過剰じゃないですか、そんなことをこの本を読んで改めて思ってしまった。


分割された時間は実際には一時間にならない

もう一つの主要な話題、時間の使い方はもうエンジニアであれば「CPUのコンテキストスイッチには一定のコストがかかるから、なるべく避けるよね、当たり前だよね?」って一言で通じる気がする。

人間の脳みそのコンテキストスイッチにコストがかからないとでも?と言って通じないときに、初めてこの本で書かれているようなことを言っていけばいいんじゃないかと。

集中するために会議室に篭ったり、オフィスを出たり、集中タイムと表示して誰にも声をかけられない環境を作ったり、というのは大なり小なり経験があると思うけど、それを組織として実践し、後押ししているところが興味深かった。


「リモートワークの達人」とメッセージは一貫していて(当たり前だけど)、自分たちがより成果を出せる環境を作っていく、変えていくために、どんなことを試して、定着させていくか?という話が一貫していて、「意思」を感じた。つまり、実際にそうゆう環境になったのはここの結果論だけど、本書の冒頭に書かれている、会社はソフトウェアと同じで常にアップデートされなければいけないというところに注目した方がいいんだろうな、と。

ただ、私たちに、世界中で使われているフレームワークであるRuby on Railsを生み出し、Basecampという長年続くプロダクトでビジネスを成長させ続けた人たちの真似ができるのだろうか…という根本的な疑問が有るんだけど。


取り敢えず、目の前ですぐに何か変えられるかはまだ分からないけれど、前の2冊と同じように、考えるきっかけにはなった。あとはやるだけど。