副題に「認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策」とあるように、本書はそのタイトル通り、”説明しても伝わらない”が何故起こるのか、そのメカニズムを解説してくれる本です。
この本を読み始めて、昔「まだ人類はニュータイプじゃないから、そんな簡単には分かり合えません」と言ってたことを思い出した。
段々と、そのネタを聞いても分からない世代になってきたので、言わなくなってきたけど。
で、たいていはその後に、「だからこそ相手にどうやって伝わるか考えて、その相手に合わせた情報の整理や、話し方が必要なんですよ」とは言っていたけど、果たしてどれだけの人ができていたのだろう。
よくビジネスにおける会話術で「結論から先に言う」というのが有るけど、あれは割と極端で誤解を生みやすい表現だと思っていて、聴く側にそれなりの準備や共通の前提条件が無ければいくら結論だけ言われても納得はしないので結局「で?」となってしまう。
この本では冒頭で、興味関心に関する枠組みを認知心理学で「スキーマ」と言うとあり、これが合わなければ伝わらない、ということが出発点になっています。
確かに、データベースでもスキーマが合わなければ、データの参照は正しくできないですからね、なるほどね、と思いました。
第2章では、伝わらない場面と、その理由 第3章では、ではどうやって伝えていくか、その方法
が語られていきます。
特に第2章は豊富な事例をもとに解説が続くので読みやすく、すいすい、読み進めることができます...が、果たして、著者の伝えたいことは本当に自分に伝わっているか、それは一度立ち止まって、読み返してみるといいかもしれません。
そして大事なのが第3章の後半です。ここで、正しく伝えるために「抽象」と「具象」を行ったり来たりしながら説明することの大切さが語られます。そして、誤った抽象の方法も併せて語られます。ここがこの本の一番の注目ポイントです。
プログラミングでも、抽象と具象のレベルをコントロールすることで疎結合な、わかりやすく、拡張しやすいプログラムが書けるか?ということが大きなテーマになるのと同じくらいコミュニケーションでも同じように大事なテーマなのです。
このブログの前回のエントリで『状況報告、報告を受ける側が知りたいのは尽きるところ「ヤバいか、ヤバくないか」「それで次に行動するのはオレかお前か」というところです』と書きましたが、”ビジネスにおける報告のゴール”は「次に誰が何をいつまでにやるのかを決める」なので、整理していくとこうなるわけですが、だからといって上司に「ヤバい、なんとかして」だけで伝わることはめったにありません(たまに存在する、超絶に察する能力が高い上司は通じちゃいますけどね)。
要約するとそうであっても、それが正しく伝わるためには色々なお膳立てや、工夫が必要になってきますし、報告する相手の思考を十分に考慮する必要があります。
そんな時に、この本を読んでおくと、そのメカニズムが分かって、スムーズに行くと思います。